照明を落とした室内で聴覚だけを研ぎ澄まし、さめざめと泣く…!

その涙活イベントは、シンプルなシステムながら、なかなか手の込んだものでした。以前、何度か体験した涙活は、会場にイスが並べてあって、薄暗い照明の中、スクリーンに映し出された映像を見て涙する、という類のものでした。

しかし、そこに用意されていたものはリクライニングソファ。なかなかよい感触なので、そのまま座っていてもいいですし、好みの角度に倒してもよい。周囲の人もそれぞれ。水平に倒してしまっている人もいましたが、私はある程度角度をつけるだけに留めました。

参加者全員、イスに座り終え、角度を調節し、落ち着いた頃を見計らって、照明が消えていきました。通常の涙活ですと、映像を見たりするので、周囲の灯りが消えてもスクリーンは明るいという場合がほとんどですが、その涙活イベントでは、灯りはどんどん消えていき、完全な闇ではないのでしょうが、…完全な闇と感じられるほど、周囲は真っ暗になってしまいました。

一瞬、自分がいまどこにいるのか、わからなくなってしまうほどです。そのままいたら、自分が消えてなくなってしまうのか、という錯覚すら起こしかねないほど、それは完璧な闇でした。不安のためか、啜り泣きめいたものが聞こえてきます。

そのとき、深く落ち着き、とても温かみのある声が聞こえてきました。

「大丈夫ですよ。心配しないで…」。

あとから参加者に聞いたところ、リクライニングソファに仕込まれた音響効果のせいかわかりませんが、…その声は人によって、女性に声に聞こえたり、男性の声に聞こえたり、子どもの声に聞こえたり、異なって聞こえているのだそうです。

暗闇の中、その声に、語りかけられ、いつしか、心から安堵し、涙を流していました。ただ、ひたすら聴覚だけを研ぎ澄まして、さめざめと…。

少しずつ周囲が明るくなってきて、元の世界に戻った、という気がしました。今まで語りかけてくれた人はどこなのか。影も形もありません。リクライニングソファに腰掛けた人のうちの誰かだったのか。

参加者に聞いたところ、このような形態の涙活はとても珍しいそうです。また、どこかで開催されることがあったら、ぜひ出かけたいと思っています。